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網膜硝子体 

 
 
網膜硝子体(サージカル)グループドクターのつぶやき

私はもう8年以上前から網膜硝子体手術を行っています。硝子体手術の魅力は眼球内での最高に繊細な操作及びハードルの高さにあります。例えば黄斑円孔では厚さ約3μmの内境界膜を剥離したり、増殖糖尿病網膜症では特殊なはさみを使って網膜に張り付いた増殖膜を除去したりなど網膜と直接触れ合うことが可能ですが、一歩間違えると網膜を逆に傷つけて視機能障害を起こすことになり円滑な操作を習得するには相当の訓練や精神力が必要です。しかしハードルの高い手技をマスターするたびに大きな喜びを得ることができます。そしてハードルの高い手技をマスターするということはそれだけ重症例を手術できるということになるのですが、重症例では1回の手術で済まない場合や、治ってもあまり視力は回復しない場合もあり、ますますの精神力が必要となります。つらくて心が折れそうになることもありますが、休みや学会などでしばらく手術をしていないと何か物足りない気持ちになります。そんな私は手術顕微鏡を通してみえる美しい網膜にハマっているのかもしれません。皆さんも私たちと一緒に手術にハマってみませんか?(奥田)


眼が見えなくなることを失明といいますが、眼球が死ぬこと(房水産生がなくなり萎縮すること)を眼球癆といいます。眼球癆に至ると、眼窩は陥没し、眼瞼は下垂し、角膜は混濁し、容貌の変化を引き起こします。さまざまな眼疾患が失明の原因となりますが、眼球癆の原因のほとんどが網膜剥離です。眼球癆を防ぐには、網膜を復位させる必要があり、これが網膜剥離の手術治療のゴールです。つまり、眼を人体に例えるならば、網膜硝子体手術は救命医療であり、心臓外科手術にあたるかもしれません。医者の手によって「治す」ことが外科治療の本質とすれば、網膜硝子体手術はまさにこれに該当します。
私が入局した20年前には、網膜剥離が治らずに眼球癆に至る患者さんはまれではありませんでした。当時は進行した網膜剥離(増殖性硝子体網膜症)を治癒できる施設は日本でも限られていました。しかし、網膜硝子体手術の目覚しい進歩により、治らない網膜剥離は激減し、治療後の視機能の質が問われる時代になってきました。まさに隔世の感がありますが、術者に要求される治療レベルはますます高くなり、たゆまぬ努力が必要です。しかし、とてもやりがいがあり、若いエネルギーを注ぐのに相応しい分野です。症例の豊富な当教室で次代の網膜硝子体手術の担い手を目指しませんか。(東出)


網膜硝子体手術は年々進歩を続けており、最近では、水より比重の重い透明な液体であるパーフルオロカーボンが保険適応になり、硝子体を可視化するためにトシアムシノロン(粉状のステロイド剤)が役立ち、経結膜的無縫合硝子体手術の手法も開発されました。当科では最新の硝子体手術装置、最新の高輝度の眼内照明装置、最新の眼内レーザー装置をそれぞれ3台づつ購入することが出来、最大3列同時進行で網膜硝子体手術を行っております。糖尿病性網膜症、網膜剥離などの各種疾患に対し、豊富な検査機器(OCT、FAG、ICG、SLO、ERG、B-モードエコー)を用いて検査を行い、最先端の技術を駆使して多数の手術を行っています。その他黄斑円孔、黄斑前膜などの黄斑部疾患に対する硝子体手術も、患者様への負担の少ない最新の25または23ゲージの経結膜的無縫合硝子体手術の手法を取り入れ積極的に行っています。手術成績においても,非常に良好な結果を得ています。更にその治療において生じた様々な問題を解決するために、現在様々な手術器具の開発や術式の改良に取り組んでいます。また、関連病院においても富山県立中央病院、厚生連高岡病院、石川県立中央病院、浅ノ川総合病院福井済生会病院、福井県立病院などにおいて多数の網膜硝子体手術が行われており、大学本体でも関連病院においても充分に網膜硝子体疾患の治療に携わることができます。眼科手術は完成されたものではなく、分かっていないことも多く、まだまだ改良の余地があります。君も網膜硝子体手術を通して患者や社会に貢献してみませんか? (西村)
 
後期研修の目標
網膜剥離、糖尿病網膜症、網膜静脈閉塞症、網膜動脈閉塞、網膜色素変性、黄斑円孔、黄斑前膜、眼内炎など各種の網膜疾患を診断する能力を身に付ける。眼底検査においては、双眼での眼底検査により立体的に所見を得ることができるようにする。硝子体混濁等に対応するためにB-モード超音波検査の手技、診断能力を身に付ける。網膜の機能評価のためにERGの手技、診断能力を身に付ける。網膜の機能評価のために暗順応検査の手技、診断能力を身に付ける。色覚検査の手技、診断能力を身に付ける。OCT、SLOの手技、診断能力を身に付ける。螢光眼底検査(FAG、ICG)の手技、診断能力を身に付ける。糖尿病網膜症、網膜静脈閉塞症などの虚血性眼底疾患治療のための網膜光凝固術の手技を身に付ける。網膜裂孔に対する網膜剥離予防のための網膜光凝固術の手技を身に付ける。網膜剥離のバックリング手術の助手を行い、能力的に可能なら執刀も行う。硝子体手術の助手を行い、能力的に可能なら執刀も行う。各種の網膜硝子体疾患の手術や、術後の経過観察に関わることで、状況を把握する診断能力と対処方法について習得する。等をめざして、網膜硝子体疾患に強い眼科専門医を育成したいと考えております。
 
最近の研究成果および今後の展望
 
@眼内充填物質の選択と体位制限の最少化について(西村)
 


現在、網膜剥離の大半は硝子体手術で治療され、術終了時に眼内は空気、SF6などのガス、シリコンオイルなどの各種眼内充填物質に置換されますが、その選択の基準や濃度、留置期間などは術者の裁量にまかされております。また術後、患者は体位制限(うつむき等)を課されることが多いのですが、1週間程度の体位制限は科学的根拠に乏しいようです。我々は数年前より、網膜剥離の硝子体手術におけるタンポナ―デ物質についてSF6やC3F8などの長期滞留ガスを一律的に使用し、長期間の体位制限を課すのでなく、病態に合わせた適切なタンポナ―デ物質の選択と体位制限の最少化による患者のQOLの改善が必要と考え治療を行っています。

我々は既に難治性の網膜剥離の一つである強度近視に伴う黄斑円孔網膜剥離において、第一選択のタンポナ―デ物質としてシリコーンオイルを使用した場合に、復位率、円孔閉鎖率、視力改善が良好で、体位制限が不要になった成果を発表しました。Management of Rhegmatogenous Retinal Detachment with Pars Plana Vitrectomy and Air with Minimum Prone Positioning: A Pilot Study. Masayo Kimura, Akira Nishimura, Yoshiaki Saito, and Kazuhisa Sugiyama
Am J Ophthalmol. In press。

また、我々は既にパイロットスタディとして、40眼の裂孔原性網膜剥離症例について、空気をタンポナ―デ物質とし、網膜下液を速やかに排出するべく最周辺部網膜に人工裂孔を作成して、術直後の合計12分間のうつむき姿勢のみで、網膜復位率が100%で視力回復も良好であった結果を得て、投稿中です。網膜下液を残存したまま手術を終了した場合、うつむき姿勢をとっても、原因裂孔より周辺側にある程度の網膜下液が溜まり、網膜は網膜下液が溜まった方向にスリップする。その網膜下液が完全に吸収し、網膜が復位するまでに要する時間は不明です。少なくとも患者はその時まで眼底の後極部に網膜下液が溜まらないように体位制限を強いられます。体位制限を怠ったり、網膜下液が消失する前に中止すれば、眼底の後極部に復位網膜の位置ずれを起こしたり、網膜に皺を残す危険性があります。我々の方法は、手技的に容易で、術後に短時間のうつむき姿勢をとることで、簡便に完全に網膜下液を排出することができ、もし術後に網膜下液が再貯留しても、再び簡便に完全に網膜下液を排出することができると予想されます。我々は更に術後のガス置換下での詳細な眼底観察、眼底自発蛍光測定による術後の網膜ずれの確認などのきめ細かい検査により、網膜復位率を維持したままで、眼内タンポナ―デ期間と体位制限の最少化を目指します。
 
Aシリコンを素材としたトロカール・カニューラシステムについて(西村)
 
新しい20ゲージ硝子体手術用のトロカール・カニューラシステムとして、セルフシーリング、非脱落、曲がった剪刀でも挿入可能という特徴を持たせたシリコンを素材としたトロカール・カニューラシステム(特許申請済)を開発し、250症例以上に使用した結果、創口に嵌頓した硝子体の牽引による網膜裂孔が発生しにくいことを報告しました。A new self-sealing cannula system for 20-gauge vitrectomy: outcomes of 247 consecutive cases. Nishimura A, Kimura M, Okuda T, Sakurada N, Miyashita H, Kobayashi A, Sugiyama K.Retina. 2008 May;28(5):778-81.
また23ゲージの経結膜的無縫合硝子体手術用のトロカール・カニューラシステムも、欠点を補うべく当科で改良したものが市販され全国の病院で使用されています。
 
Buveal effusion syndromeに観察された自発蛍光について(奥田)
網膜硝子体分野での症例研究を行い、随時学会発表及び論文投稿を行っています。網膜硝子体の分野では、近年自発蛍光とういう生体が自ら発する蛍光を非侵襲的にとらえる検査が注目されています。自発蛍光は主に網膜色素上皮細胞の視細胞外節貪食により網膜色素上皮細胞内に蓄積されるリポフスチンに由来し、網膜色素上皮による視細胞外節の代謝機能を反映しています。すなわち主にこのリポフスチンが蓄積される疾患において自発蛍光をとらえることが可能ですが、我々はuveal effusion syndromeという脈絡膜の循環障害が原因で滲出性網膜剥離を来たす稀な疾患の術後に、自発蛍光が存在することを世界で初めて確認し報告しました1)。図1はuveal effusion syndromeの術後にOCTと呼ばれる検査で網膜の断層図を撮影したものですが、そのうちの黒矢印は網膜色素上皮の肥厚を示しており、この部分では増殖した網膜色素上皮細胞の視細胞外節貪食によりリポフスチンが蓄積されていることが示唆されます。そして図2は眼底の自発蛍光を撮影したものですが、赤丸で示すような白く見える部位は自発蛍光を発しており、眼底の至る所で自発蛍光が存在するのを示しています。

1)Okuda T et al. Fundus autofluorescence and spectral-domain optical coherence tomography findings of leopard spots in nanophthalmic uveal effusion syndrome.  Graefes Arch Clin Exp Ophthalmol. 2010 Aug;248(8):1199-202
図1 図2
 
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