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専門分野の研究紹介

 

緑内障グループ(1)

 
緑内障(glaucoma)は、紀元前400年のヒポクラテスの時代に遡る極めて歴史の長い疾患です。また、緑内障は一つの眼疾患ですが、日本でも国際的にもそれだけで大きな学会が組織されるほどいろいろな研究側面をもつ疾患です。緑内障は、眼圧などのストレスにより視神経乳頭において網膜神経節細胞の軸索が障害され、網膜神経節細胞死が起こり、視野障害が起こる疾患ですが、解剖学、生理学、薬理学、生化学、分子生物学などの叡知を結集しても、いまだに解き明かされない謎が少なくありません。診断と病態、薬物療法、手術療法ともに未解決の課題が山積しています。当教室では杉山教授の指導のもとで、緑内障のよりよい診療を目指して診断から治療までさまざまなテーマの研究を行っています。当教室での研究に参加して、紀元前から続く緑内障の謎を解き明かし、歴史の1ページを作りませんか?
 
 

1.診断、病態

 
① OCT対応視野計(大久保)
可児先生の考案された眼底対応視野計に OCTを併用し、より詳細に構造と機能を対応させることが可能な OCT対応視野計の開発を行ってきました。 OCT対応視野計により、眼底や OCTには異常がみられるが通常の視野計では異常を検出できない前視野緑内障の構造的に異常がある部位の詳細な視野評価が可能になりました。また、従来から中心窩近くでは黄斑部では視細胞と対応する網膜神経節細胞が位置ずれ( retinal ganglion cell displacement :RGC displacement)をきたしていることが報告されていましたが、我々は構造( OCT)と機能(視野)を正確に対応させるためには RGC displacementを考慮する必要があることを明らかにしました (Ohkubo S, Higashide T, Udagawa S, et al: Focal relationship between structure and function within the central 10 degrees in glaucoma. Invest Ophthalmol Vis Sci 55:7479-7485, 2014)。 RGC displacementを考慮した前視野緑内障用に配置した検査点を用いた OCT対応視野計で、 OCTによる構造変化と感度低下部位の対応を確認する研究を開始しています。この視野計のために開発して頂いた focal pattern deviationなどを用いて、最適な感度・特異度が得られる陽性基準を求めたいと考え、たじみ岩瀬眼科の岩瀬愛子先生と共同研究を行っています。
 
②緑内障眼における OCT angiography (新田)
乳頭出血の出現側と非出現側を比較して、乳頭出血出現側の放射状乳頭周囲毛細血管密度が有意に減少していることを、Graefes Arch Clin Exp Ophthalmol 2019に報告した。
 
③緑内障予後予測に関する研究 (新田)
広義POAG患者から得られた診療情報を後ろ向きに収集・解析することで、視野障害進行のリスクファクターをはじめとする日本人の緑内障予後予測について検討した。MD slopeに有意に影響を与えた因子は、垂直C/D比、リム/乳頭比、リム幅、網膜神経線維層欠損角度、乳頭出血出現頻度で、MD slopeの予測式を構築し、ROC解析を用いて精度を検討した結果、AUCは0.7以上であり、精度は中等度であることを確認し、Sci Rep 2017に報告した。
 
④ Kalman Filter理論を応用した広義POAGの検査スケジュール決定 (新田)
ミシガン大学のDr.Stein.JDと共同で、Kalman Filter理論を応用してPOAG患者の検査スケジュールを決定する研究を行っている。Dr.Stein.JDらのグループはすでにOphthalmology 2014にて、Kalman Filter理論を応用すれば進行をある程度予測でき、固定間隔で検査した場合より、より速く進行を検出できたことを報告した。NTGの多い日本人でのデータでも解析するために、福井県済生会病院のデータを活用し同様の解析を行い、AJO 2019に報告した。
 
⑤前視野緑内障の早期発見および進行予測 (竹本(大輔)) 
現状では、残念ながら、緑内障の進行により失われた視野の回復は望めませんが、治療により進行を遅らせることができます。加齢は緑内障の発症・進行のリスク因子であることが明らかとなっており、きたる超高齢化社会において、ますますこの疾患の社会的な重要性は高まってきます。そのため、早期発見法の探索がわれわれ緑内障専門医の急務となっています。近年の眼底イメージング技術の発達により、いわば「緑内障予備軍」といえる前視野緑内障という概念が確立され、現在ホットな研究分野となっています。いまだ緑内障の病態には未解明な点が多く、超早期の徴候や進行因子についても十分に解明されているとはいえません。わたくしは以下の 2点について研究をしています。
 
A) 前視野緑内障の早期発見について
前視野緑内障の早期発見につながる光干渉断層計所見について研究をしています。当院での詳細なカルテを後ろ向きに辿ることで、網膜厚の上下非対称性が病初期の変化ではないかと考えたことが研究をスタートするきっかけでした。まずは上下非対称性を定量化し、正常群と PPG群で比較検討したところ良好な診断能がえられ、次に黄斑部網膜内層の各層ごとに上下非対称性を検討したところ、 GCL/IPL厚を使った上下非対称性がもっとも良好な結果が得られることが示されました。この変化は緑内障であらわれる最初の徴候なのではないかとわたくしは考えています。
  
  

  

 
B) 前視野緑内障の進行予測について
緑内障の進行は眼圧のみでは説明がつきにくい点もあり、眼血流も重要なファクターではないかと考えられています。早期発見することができた前視野緑内障が、その後進行していくのか、それとも進行しにくいタイプなのかを事前に判断(進行予測)することができれば、臨床上きわめて有意義な情報となりますが、それを判断するための材料がまだまだ不足しています。わたくしはこのテーマを、前視野緑内障についての臨床研究の第2のステップと考え、おもに光干渉断層血管撮影で得られた眼血流データと前視野緑内障の進行の関連について研究しています。
 
  
  

 
  

 
⑥眼圧日内変動 (土屋)
哺乳類の体内時計は視交叉上核によってコントロールされていることが広く知られていますが、最近の報告 (Buhr ED et al. PNAS 2014 and 2015)ではマウスの網膜および角膜がこの中枢時計 (視交叉上核 ; SCN)からの命令なしに、直接外部の明暗サイクルを neuropsin (OPN 5)を介することで感受し、それぞれの抹消時計を光同調ができるということが示されました。この局所光同調メカニズムが、眼圧変動の局所時計および眼圧を形成する房水産生場所である毛様体の局所時計にも存在することを確認するための実験を行ないました。第一にマウスの虹彩及び毛様体における melanopsin (OPN4)および neuropsinの発現を RT-PCRにて確認し、そのどちらのオプシン mRNAも虹彩毛様体に発現していることを確認できましたが、同じく melanopsin, neuropsinを発現している網膜や角膜とは異なり、虹彩毛様体のみ ,および網膜と角膜と共培養を in vitroで行っても、 PER2::luciferase knock in マウスで確認できる範囲では光に感受性はありませんでした。その後 wild-typeおよび錐体・桿体、内因性光感受性網膜神経節細胞 (ipRGC)も持たず、実質的に盲状態である Opn4-/-;rd1/rd1(melrd)マウスを用いて、一定期間の 12時間明暗サイクル下で飼育した後に、 melrdマウスが明期に activeになったタイミング (wild-typeとちょうど逆位相の状態 )24時間経時的に眼圧を測定し、 wild-typeの眼圧日内変動と比較することで、眼圧日内変動は光に直接同調することなく SCNのシグナルを受け取っていることを解明しました。( Tsuchiya S et al. PloS One 2017)さらに、その SCNから眼圧日内変動形成のシグナル伝達物質として、副腎ホルモンであるグルココルチコイドが重要な役割を果たしている可能性が考えられましたので、 PER2::luciferaseマウスの虹彩毛様体にデキサメタゾンを in vitroで添加し、 phase-responseを作成したところ、 CT 8-12にて phase-delayCT 16-20phase-advanceが可能なことが示され、デキサメタゾンによって虹彩毛様体の局所時計がリセット可能なことがわかりました。さらには副腎摘出マウスの眼圧日内変動を測定し、眼圧日内変動が消失してしまうことが判明し、これらの結果から副腎ホルモンの1つであるグルココルチコイドが眼圧日内変動形成に深く関わっているという可能性を示すことができました。 (Tsuchiya S et al. IOVS 2018) 今後はこのグルココルチコイドと眼圧リズムとの関連に着目し、さらなる発展が期待できます。
 
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