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専門分野の研究紹介

角膜グループ

 
角膜グループ
・杉山 和久
・小林 顕
・横川 英明
・森 奈津子
・西野 翼
 
現在の角膜グループの研究テーマは以下のとおりです。
 (1)レーザー共焦点顕微鏡を用いた角結膜疾患の解析
    (特にK-structureについて)
 (2)角膜感染症(特にアカントアメーバ角膜炎、サイトメガロウイルス角膜内皮炎)に関する研究
 (3)羊膜移植に関する研究
 (4)角膜内皮移植に関する研究
 (5)結膜弛緩症に関する研究
 

(1)レーザー共焦点顕微鏡を用いた角結膜疾患の解析

 レーザー共焦点顕微鏡HRT II ロストック角膜モジュール(ハイデルベルグ社、ドイツ)(図1A)では光源として単一波長670nmのダイオードレーザーを用いているため散乱光が少なく、従来の白色光(ハロゲンランプ)を光源とする生体共焦点角膜顕微鏡に比較して、より解像度の高い画像を得ることができるようになりました。正常角結膜所見を図1に示します(図1B-L)。本装置を用いて、正常角膜、角膜感染症、角膜ジストロフィなど、様々な角膜疾患の診断や治療に役立てることができます。
 本装置を用いて正常角膜を詳細に観察したところ、ボウマン層と角膜実質の境界面領域において、角膜上皮下神経より若干輝度の低い線維状の不定形構造物(幅5 to 15 µm程度)が存在することを発見しました(図1E)。従来の白色光源生体共焦点顕微鏡では同定が不可能でしたが、レーザー生体共焦点顕微鏡にて初めて可視化に成功し、我々は本構造物をKobayashi-structure (K-structure)と命名しました。なお、K-structureの広範囲マッピングを使用した最近の我々の研究では、K-structureは角膜フルオレセインモザイク(フルオレセイン存在下で眼瞼の上から角膜を軽くマッサージすると出現する)発生の解剖学的原因であることを強く示唆するデータを得ています。
 

 
1HRT II ロストック角膜モジュールの外観と正常所見
A:装置の外観。 B:角膜上皮最表層(Bar=100μm、以下同様)。C:角膜上皮基底細胞層。D:ボウマン層と角膜上皮下神経叢。E:ボウマン層と角膜実質の境界面領域に観察される角膜実質コラーゲン線維の終末部と考えられる構造(矢印)(K-structure)。F:角膜実質。G:角膜内皮層。 H:正常結膜とゴブレット細胞(矢印)。I:テノン嚢内を走行する血管(矢印)。J:Palisade of VogtK: 角膜輪部では、やや高輝度な結膜と低輝度の角膜上皮細胞との移行部がモザイク状に観察される。L:マイボーム腺。

(2)角膜感染症(特にアカントアメーバ角膜炎、サイトメガロウイルス角膜内皮炎)に関する研究

 
 レーザー生共焦点顕微鏡の臨床的有用性が最も発揮される場面が、アカントアメーバ角膜炎初期(図2A)の補助診断です。本装置を用いることにより、アカントアメーバのシストは直径10-20μmの円形高輝度物質として初期には上皮内に限局して観察されます(図2B)。従来は、アカントアメーバの疑いが濃厚である場合に初めて上皮の掻破、鏡検(図2C)などの侵襲的な検査を行っており、早期診断の機会を逃す場合も見られました。その点、レーザー生体共焦点顕微鏡は非侵襲的でかつ短時間で施行可能であるため、本症の疑い例には躊躇なく直ちに施行できる利点があります。また、本装置を用いることにより真菌の菌糸も観察可能なため、角膜真菌症の初期診断にも有効です(図2D-F)。またサイトメガロウイルス角膜内皮炎において、感染細胞(Owl's eye cell)の画像が得られるため、診断と治療効果の判定に役立ちます。我々は本装置を用いて、さらにアカントアメーバシストや栄養体の形態に関する詳細な研究を行っています。
 

2:角膜感染症

A: ソフトコンタクト使用者に見られた角膜炎。上皮下混濁と放射状角膜神経炎を認めた。B: レーザー共焦点顕微鏡では、上皮基底層のレベルに、円形(直径10-20μm)で高輝度のアメーバシストを多数確認できた。Bar=50μm C: パーカーインクKOH染色では多数のアメーバシストが検出された。Scale=10μm D: 角膜真菌症の1例。E: レーザー共焦点顕微鏡では、多くの菌糸が確認された。Bar=50μm F: 鏡検にても同様の菌糸が確認され、アスペルギルスによる感染と考えられた。

(3)羊膜移植に関する研究

羊膜は子宮と胎盤の最内層を覆う厚さ約100µmの半透明の薄い膜であり、羊膜上皮とその下の基底膜、さらにコラーゲンに富み無血管な実質組織から成り立っています。羊膜の眼表面への移植方法には大きく分けて3種類あり、原疾患の種類によって使い分けています。①再発翼状片や結膜腫瘍切除後に対して羊膜を新しい基底膜として用い、結膜が羊膜の上に伸展するのを期待する方法(図3、図4)。②角膜化学腐食急性期や角膜上皮欠損などに対して羊膜を一時的なパッチとして眼表面を覆い、角結膜の上皮が羊膜の下に進展するのを助ける方法(図5)。③角膜小穿孔や角膜潰瘍の際に、“つめもの”として作用させ、角膜実質の代用とする方法などがあります。実際の手術ではこれらを単独、または組み合わせて使用したり、角膜上皮幹細胞移植などと併用することによって、従来治療が困難であった様々な眼表面疾患に対する治療が可能となりました。妊婦から提供された羊膜を、日本組織移植学会認定の組織(羊膜)バンクから入手しています。
障害された眼表面に対して羊膜移植を行うことによって、①角膜・結膜上皮化の促進、②角膜・結膜表面の分化の促進、③抗炎症作用、④角膜・結膜の瘢痕形成の抑制、⑤角膜の血管新生抑制などの作用が期待できます。これらの作用は透明性の維持が重要な機能である角膜にとって大変に都合が良く、これにより視力の向上や美容的に優れた効果が得られます。また、最近では水疱性角膜症患者における慢性疼痛を除去(又は軽減)できることが臨床的に確認されています。
 我々のグループでは、新しい羊膜移植術式の開発や、羊膜移植術後の眼圧測定法など、羊膜に関する臨床研究を積極的に進めています。
 

図3:羊膜移植術(羊膜グラフト法)のシェーマ
図4 A:再発翼状片。角膜に伸展した異常な結膜下線維血管組織が認められる。
図4 B:羊膜移植(羊膜グラフト法)術後1年。眼球運動も正常となり、美容的にも満足できる結果が得られた。

図5 A:急性期酸外傷に対して羊膜カバーを行った症例。初診時(受傷4日目)、広範な角膜結膜上皮の欠損を認めた。

図5 B:羊膜カバーは受診当日に施行。眼表面は羊膜でカバーされており、疼痛の著明な減弱を認めた。

図5 C:術後7日目で羊膜カバーを除去したところ上皮化は完成していた。写真は術後1カ月の前眼部。視力は0.2から1.2まで向上した。